SHIRAHA CPA Profession Office
白羽公認会計士事務所

サステナビリティ情報の開示

SSBJ開示基準 日本特有の取扱い

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)はサステナビリティ開示基準の公開草案を公表している。一定の要件を求めたうえで、わが国特有の取扱いも含まれており、その内容は次のとおり。
①報告期間と異なる算定期間の指標を開示することを許容
②財務諸表と異なるタイミングでのサステ情報を開示することを許容
③財務諸表とは別に開示することを許容(有価証券報告書の2段階開示)
④コネクティビティを開示(財務情報との関連性を開示)
⑤初年度経過措置(リスクと機会の非開示を許容)

気候関連開示基準案においてもわが国特有の取扱いを定めている。
GHG排出量についてGHGプロトコルとは異なる方法、例えば温対法に基づく対象企業がGHG算定・報告・公表制度に基づき算定することも許容される。この場合、当局に提出した排出量を開示することになり、財務諸表の報告期間との差異が1年を超えることも考えられる。
我が国の追加的な要求事項として、スコープ3開示は15カテゴリ別の開示が求められている。
なお、初年度経過措置として比較情報やスコープ3の非開示が許容されている。

内閣官房が非財務情報の検討を開始、特に人的資本について。

8月30日に「人的資本可視化指針」を策定・公表(トップページ参照)
*********************
6月20日に第6回研究会が開催されました。
人的資本可視化指針(案)が示されています。有価証券報告書における人的資本開示の方向性を受けて開示すべき項目について言及されています。
ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)
*********************
5月19日に第5回研究会が開催されました。
ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)

****************
4月20日に第4回研究会が開催されました。
人的資本に関する指針のたたき台が提示されています。「人的投資を起点とする好循環」に向けた人的資本情報の可視化が注目されています。
このたたき台は議論を経て、有価証券報告書における人的資本に関する開示の指針になると考えます。

ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)
**************
3月18日に第3回研究会が開催されました。
ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)

********************
3月7日に第2回研究会が開催されました。

ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)
***************
2月1日、内閣官房は「非財務情報可視化研究会」を設置し「人的資本」についての検討を開始した。有価証券報告書などへの開示を見据えた検討が進められる見込みです。
「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革などの概念について検討を進めていく。
今年中に非財務情報の開示ルールを策定する方針。

ワーキンググループ等開催状況|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)

SSBJサステナビリティ開示基準の設定に向けた検討

投資家及び他の資本市場参加者の十分な情報に基づく意思決定を支援するため、企業のサステナビリティに関連するリスク及び機会に関する情報を提供する、開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを提供することを目的としてISSB(International Sustainablility Standards Board)が設立されました。わが国ではSSBJを設置することを決め、我が国のサステナビリティ開示基準の開発の準備を始めています。

SSBJ設立準備委員会議事|企業会計基準委員会:財務会計基準機構 (asb.or.jp)


【参考IFRS-S2号気候関連開示】
IFRS - Climate-related Disclosures

金融庁が有価証券報告書に気候変動対応に関する情報開示義務化の検討開始

DWG議論が再開されました。主に四半期業績報告について議論されています。
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
*******************
ディスクロージャーワーキング・グループ報告が公表されました。
これまでの検討が纏められています。
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について:金融庁 (fsa.go.jp)
*****************
ディスクロージャWGが5月23日に開催されました。
WGは報告案を提示し、サステナビリティ開示(全般、気候変動、人的資本・多様性)、コーポレートガバナンスに関する開示についての方向性を示すと伴に、四半期報告を決算短信に一本化する方向が示されています。
サステナビリティ開示については有価証券報告書による法定開示と任意開示についての方向性を示すとともに、課題とされていた公表時期について将来的にとしたうえで法定・任意開示の公表時期を揃えていく方向としています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第9回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
**************
ディスクロージャーWGが4月18日に開催されました。

四半期決算についての議論がされています。四半期決算短信と四半期報告書が一本化される方向で検討されています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第8回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
*************************
ディスクロージャーWGが3月24日に開催されました。
WGではISSBによるサステナビリティ情報開示基準の検討とSSBJによる開示事項と気候変動関連プロトタイプの検討を踏まえ有報での開示について議論されています。また、人的資本・多様性に関する開示についての議論も進めています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第7回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
*******************

ディスクロージャーWGが2月18日に開催されました。
WGでは、四半期開示の見直しについての議論がされています。また、適時開示と臨時報告書の制度についての整理がされています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第6回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
*******************************
ディスクロージャーWGが1月19日に開催されました。
WGでは重要な契約に関する開示について議論がされています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第5回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)

ディスクロージャーWGが12月1日に開催されました。
WGでは2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードを踏まえた取締役会、指名・報酬等委員会の活動、監査に対する信頼性確保、政策保有株式等の取組みと開示についての議論がされています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第4回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
***************************
ディスクロージャーWGが10月29日に開催されました。


金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第3回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
****************************
ディスクロージャーWGが10月1日に開催されました。
この中で開示におけるマテリアリティの考え方、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の方向性、来年6月IFRS財団サステナビリティ報告基準との調整などについて議論されています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第2回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)

***************************
金融庁金融審議会ディスクロージャーWGが9月2日に開催され、有価証券報告書にサステナビリティ(気候変動対応、人的資本への投資、多様性の確保等)とコーポレートガバナンス(取締役会の活動状況など)に関する情報開示についての議論を始めました。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)

経産省 非財務情報の開示指針研究会

経済産業省経済産業局は非財務情報の開示指針の方向性についての認識の共有を行いながら、非財務情報の利用者との質の高い対話に繋がる開示、及び開示媒体の在り方について検討し、我が国の立場を的確に発信し、国際的な評価を高めるために非財務情報の開示指針研究会を設けています。

IFRS実務記述書第1号「経営者による説明」(公開草案)にESG事項が追加されたことを背景に、非財務情報の開示の考え方、個別分野における非財務情報の開示の在り方(気候変動と人的資本)について中間報告として10月にまとめる予定です。

なお、10月4日(第4回)開催の資料として「欧州 CSRD に基づく気候基準プロトタイプ」が示されており、気候関連の開示として参考になります。

11月5日(第5回)開催の資料として「非財務情報の開示指針」中間報告(案)を公表しています。非財務情報、サステナビリティ情報と財務情報との関連性のように現状の理解を促進するための資料として有用と考えます。欧州CSRDに基づく気候基準プロトタイプの日本語版も掲載しており、実務の参考になります。

非財務情報の開示指針研究会 (METI/経済産業省)

2月3日(第6回)に開催されています。この中で非財務情報に関するプロトタイプを示しています。
第6回 非財務情報の開示指針研究会(METI/経済産業省)

こう変わる、サステナビリティ開示

コーポレートガバナンスコードで上場企業に求めるサステナビリティ課題に関する情報開示の制度化について簡単に理解する資料を提供します。
こう変わるサステナビリティ開示

サステナビリティ開示に関する検討が進められていますが、将来における開示がどうなるか、筆者の見解を簡単にまとめてみましたので参照ください。
有価証券報告書に記載されているサステナビリティ情報は集約され新たな項目として開示が求められる方向です。補足的な情報開示が必要な企業は任意に開示するHPやサステナビリティ報告書を作成することが予想されます。
こうなる、サステナビリティ開示

CGコードに基づくサステナビリティ開示

改定コーポレートガバナンス・コードでは補充原則3-1③において上場会社に対し「経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産の投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべき」としています。
サステナビリティ課題のうち、共通の重要課題である気候変動に関する開示について、プライム市場上場会社に対し「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたばそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき」としています。
CGコードに基づく気候変動に関する開示についてTCFDに基づくフル開示をするには相当の準備に時間を要すると考えられており、直ぐにフル開示を求めるものではないと言われています。ただし、フル開示に向けた説明をしていく必要があると考えられます。開示が難しい内容についてはその理由と何時までにどの様に対応し、その間はどの様な情報を提供するのか等を説明していくことになると考えられます。

補足)
金融庁は「投資家と企業の対話ガイドライン」をスチュワードシップ・コードとCGコードの附属文書として示しており、CGコードの改訂に併せてガイドラインを改訂しています。その改訂の主な内容に「サステナビリティを巡る課題への取組み」が含まれています。
「投資家と企業の対話ガイドライン」(改訂版)の確定について:金融庁 (fsa.go.jp)

ESGの開示、現状と方向性

企業のESGに関連する情報は統合報告書やサステナビリティ・レポート、CSR報告書により提供されています。ESG課題に関する取り組みは投資家をはじめ従業員を含む多様な利害関係者が注目しており、更には社会共通の課題への取り組みとしてESG情報の開示が促進されています。これらは企業の任意による開示となりますが、財務情報の開示の様に制度の枠組みに従った開示と一体として開示することで有用な情報を提供するという意見もあります。
企業が求められる開示情報として非財務情報、特にESG情報についての要求が市場や投資家から強くなり、開示の義務化への流れが必然のように言われています。EUでは企業持続可能性報告指令(CSRD)案でESG開示の報告義務が打ち出されています。我が国においても英国をはじめとする諸外国と歩調を合わせ、有価証券報告書においてTCFD提言に沿った開示を求める方向で検討が進んでいます。
金融庁サステナブルファイナンス有識者会議は2021年6月に報告書を公表し、サステナビリティ情報に関する適切な企業開示についてのスタンスを示しています。特に世界の共通課題である気候変動リスクへの対応について企業、金融機関、投資家に取り組みを促しています。
気候変動に関する課題は全ての企業が向き合う共通の課題であり、金融機能を通じた取組みを促進するための政策が推進され、企業にも開示を通じた取組みが求められています。詳しくは金融庁HP
サステナブルファイナンス有識者会議:金融庁 (fsa.go.jp)

有価証券報告書による制度の枠組みによる開示では情報の信頼性と比較可能性は確保されるものの、企業価値の評価にあたり必要な情報が必ずしも十分でないという側面があります。これに対応して有価証券報告書における非財務情報の充実が推進され「経営者目線での情報開示」が求められています。

効果的で効率的なESG情報開示フレームワークを探求する「ESG情報開示研究会」が2020年6月に発足し、その活動の内容を発信しています。

パリ協定とTCFD

地球温暖化対策の国際的枠組みとして「京都議定書」に代わり2020年以降を対象とする「パリ協定」が発効しています。パリ協定は2015年12月に開催されたCOP21 (国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で約200か国の合意で成立しています。パリ協定では世界の気温上昇を産業革命以前に比べ2℃を十分に下回る水準とし、更に1.5℃に抑える努力をするという目標を掲げ、全ての国は5年ごとにGHGの削減目標を国連に提出し、対策を進めることを義務付けています。この目標を達成するためIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示す科学的根拠に基づき21世紀末のできるだけ早い時期に全世界のGHGを実質的にゼロにする「脱炭素化」を長期目標として定め、各国ではそのための政策を展開しています。IPCCによれば世界の気温は産業革命前に比べ1℃上昇しており、2030年には1.5℃上昇し、2050年には4℃程度の気温上昇が見込まれると言われています。
パリ協定を受け、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどうするかを検討するためTCFDが設立されました。

TCFD-シナリオ分析

TCFD提言に沿った開示を推進していくうえでハードルが高い項目として「シナリオ分析」があります。シナリオ分析では将来事象の予測において不確実な条件に基づき、比較的長期に展開し、将来重要な影響を招き得る問題を評価するうえで有益な分析手法と言われています。TCFDは気候関連の不確実さの中でも一定の仮定をおいてリスク・機会を想定し、その影響について開示することの重要性を主張し、2℃あるいはそれを下回る将来の気候シナリオを想定し、組織の戦略のレジリエンスについての説明を求めています。
シナリオ分析は、企業にとって実務的なハードルが高く、わが国においては先進的な限られた企業がシナリオ分析を行い開示しているにとどまっています。
シナリオ分析の結果としてどの様な課題が判明し、その課題に対する対応について情報を開示することになります。例えば、気温が2℃上昇した場合に炭素税が導入され●●百万円のコストが増加する、という影響を開示することが考えられます。

企業情報開示とガバナンスの連動 JICPA

日本公認会計士協会(JICPA)は、企業による非財務情報の開示充実が推進されるなか、情報開示における企業のガバナンス機能に係る課題を提起し、その対応についての提案を行っています。
情報開示における取締役会あるいは監査役がガバナンス機能についての課題が提起されています。例えば、企業の財務・非財務情報を開示する法定書類である有価証券報告書が取締役会の付議事項となっていない企業もあるといわれています。決議事項になっている場合でも、有価証券報告書は株主総会後に提出されるケースが多く、総会で選任された取締役が出席する取締役会で決議されることから課題があると考えられます。
企業が開示する財務情報については内部統制システムの一環としての財務報告プロセスが構築されており、このプロセスに従って財務情報が作成・集計され、情報公開されています。一方、非財務情報については非財務報告プロセスの構築が制度として求められておらず、公開されている情報に正確性・信頼性にはバラツキがあると考えられます。
企業による財務・非財務の情報は、取締役会や監査役等によるガバナンスが機能したプロセスを経て開示されることで企業の重要な課題への取組みの実効性が確保されることが期待されます。


企業情報開示・ガバナンス検討特別委員会 「企業情報開示に関する有用性と信頼性の向上に向けた論点の検討 ― 開示とガバナンス の連動による持続的な価値創造サイクルの実現に向けて ―」の公表について | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp)

補足)TCFDガバナンス
TCFD提言では気候関連のリスクと機会に関する組織のガバナンスを開示することを推奨しています。リスクと機会に関する経営者の役割と取締役会の監督(モニタリング)についての説明がその開示内容となります。また、気候関連財務情報の開示は適切な内部統制プロセスにより情報が生成されることが求められます。