(経験豊富な会計士が経理実務を伝授)
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注意)個別事案により結論が異なる場合がありますので、実務で適用する際は顧問会計士又は税理士にご相談ください。
こんにちは、公認会計士の細谷です。今回から減損会計について全2回で解説していきたいと思います。「減損会計って聞いたことはあるけれど、内容はよくわからないな」という人に向けて、なるべく平易な言葉で減損会計のイメージがつかめるように説明していきます。
前偏(今回)は、減損会計の概要及び資産のグルーピング(STEP1)について説明します。後編(次回)は、減損の兆候の認識(STEP2)、減損損失の認識の判定(STEP3)及び減損の測定(STEP4)について説明する予定です。
それでは減損の概要から始めていきましょう!
〇減損会計ってなに?
資産の収益性の低下により投資額の回収が見込まれなくなった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理することです。
少し難しいでしょうか?もっと具体的に見ていきましょう。
たとえば、当期末残高100万円の機械装置があるとして、この機械装置を利用して翌期以降に200万円の儲けが見込まれる場合、減損処理する必要はあるでしょうか?この場合は、翌期以降の儲け200万円で、当期末残高100万円を回収できるので減損処理の必要はないですね。
では、翌期以降に60万円の儲けしか見込まれない場合どうでしょうか?この場合は、翌期以降の儲け60万円では、当期末残高100万円のうち40万円は回収が見込めなくなってしまいましたね。この40万円部分(将来回収できない部分)を当期末残高100万円から評価減させる処理が減損処理となります。
〇検討の手順は?
ここで、こんな質問があるかもしれません。
「減損処理については何となくわかりました。ただ、当社では数千の固定資産を保有しており、決算期ごとにそれぞれの固定資産の翌期以降の儲けの見積りをして回収可能性を計算するのですか?さすがにしんどいです・・・」
安心してください!会計基準も実務負担に配慮をしてくれています。具体的にいうと、検討のSTEPを下記の4段階に分け、
たとえば、「②減損の兆候の把握」に該当しなければ、「③減損損失の認識の判定」以降の検討は不要としているのです。したがって、ご質問のような心配はしなくても大丈夫です。
それでは、①~④についてはそれぞれ具体的に見ていきましょう!
〇STEP1:資産のグルーピング
減損会計では、その固定資産が簿価以上にお金を生み出すかどうかを判断することになります。そのため、当該固定資産とお金が紐づかなければなりませんが、通常1つの固定資産だけでお金を生み出すことは少ないと思います。たとえば、工場でパンを製造している場合、建物や沢山の機械装置、備品等が一体となることでパンを製造し、お金を生み出すことになります。そこで会計基準は、まずは固定資産についてお金を生む出すことができる最小のユニットにグルーピングしましょう、と定めています。上記の例でいえば、「工場」が1つのグループとなります(数十から数百の固定資産をひとまとめ)。
このグルーピングを行うことにより、STEP2以降の検討の土台ができます。STEP2以降が毎期検討することになる減損会計の内容ということになりますが、それは次回で解説していきたいと思います。
ご覧くださりありがとうございました。
【著者紹介】
公認会計士 細谷雄一郎(細谷公認会計士事務所 代表)
大手監査法人にて会計監査実務を約12年経験し2021年9月に独立。監査法人時代には電力業をはじめ、製造業、社会福祉法人、学校法人等のさまざまな業種を担当。また、経理担当者や監査役向けの研修講師や書籍の執筆も担当。共著として「業種別会計シリーズ 電力業 改訂版(第一法規)」。
現在は、会計監査、合意された手続(AUP)、助言業務、仕訳データ分析業務(大規模データの処理)を主に行っている。
今回は、減損会計(前偏)の続きとして、減損の兆候の認識(STEP2)から解説をしていきます。前偏をご覧になっていない方は、前偏から見ていただけると理解が深まると思いますので、ぜひご覧ください!
(全体像)
STEP1:資産のグルーピング
STEP2:減損の兆候の把握 ←ここから
STEP3:減損損失の認識の判定
STEP4:減損損失の測定
〇STEP2:減損の兆候の認識
全ての固定資産について毎期末に減損会計の詳細な検討を行うことは実務上大変な労力となることから、収益性が低下している「兆候」が見られる固定資産グループ(ex.工場等)についてのみ詳細な減損会計の検討を行えばよいと会計基準上定められています。
では、収益性が低下している「兆候」とはどのようなものがあるのでしょうか?
上記のような事象が認められる固定資産グループについては、収益性が低下している可能性があるため、STEP3以降の詳細な検討に進むことが求められます。
なお、昨今の新型コロナウィルス感染症拡大や著しい円安の進行により①や③の兆候に該当するケースが増えているのではないかと思います。
〇STEP3:減損損失の認識の判定
減損の兆候が認められた場合には、より詳細に収益性の低下が起きているかを確認します。具体的には、その資産グループが将来獲得するキャッシュ・フローを見積り、その合計額と現在の帳簿価額を比較し、帳簿価額より将来キャッシュ・フローの合計額が少ない場合には、収益性が低下していることが明らかといえるため(帳簿価額より将来入ってくるお金が少ないから)、減損処理することを確定させ、具体的な減損損失の金額を算定するためのSTEP4の検討に進むことが求められます。逆に、帳簿価額より将来キャッシュ・フローの合計額が多い場合には、将来に儲けで帳簿価額(残存投資額)を回収できるため、減損処理を行わないという結論になります。
では、帳簿価額と比較する「将来キャッシュ・フロー」はどのように算定するのでしょうか?大きく分けると下記の3項目を検討します。なお、詳細な事項の全てを記載すると大筋がぼやけてしまう可能性があるため、今回は基本的な事項に絞って補足していきます。
②③の総額が上記の「将来キャッシュ・フロー」になります。当該資産グループの帳簿価額と「将来キャッシュ・フロー」を比較して、「将来キャッシュ・フロー」の方が小さければ、STEP4の検討に進みます。
〇STEP4:資産損失の測定
減損損失の認識を行うことになった場合には、減損損失の金額を測定する必要があります。具体的には、STEP3で算定した「将来キャッシュ・フロー」を一定の割引率で割り引いて、現在価値を算定し、帳簿価額から現在価値を引いた額が減損損失の金額になります。
たとえば、帳簿価額1,000、将来キャッシュ・フローの見積期間3年(各年度100のキャッシュ・フロー)、割引率3%の場合、現在価値は100÷1.03+100÷1.032+100÷1.033=282となり、帳簿価額1,000-現在価値282=718が減損損失の金額となります。
なお、割引率の算定は①企業内の投資意思決定に用いられるハードルレート、②資本コスト、③類似資産グループの市場平均収益率及び④当該資産グループを借入により購入している場合には当該借入利子率を勘案して決定します。
また、複数の固定資産で資産グループが構成されている場合には、減損損失の金額を各固定資産の簿価の比で各資産に減損損失を配分することが考えられます。
〇まとめ
以上が減損会計の大枠になります。減損会計のイメージをつかめたでしょうか?
昨今、新型コロナウィルス感染症拡大による大幅な収入減や資源価格の高騰等が重ねり、減損会計を検討しなければならない状況が増えてきていると思います。収支が厳しくなってきているなと感じている会社さんにおいては、減損会計の適用漏れがないか、今一度整理をしてみてはいかがでしょうか。
ご覧くださりありがとうございました。
【著者紹介】
公認会計士 細谷雄一郎(細谷公認会計士事務所 代表)
大手監査法人にて会計監査実務に従事し2021年9月に独立。監査法人時代には電力業をはじめ、製造業、社会福祉法人、学校法人等のさまざまな業種を担当。また、経理担当者や監査役向けの研修講師や書籍の執筆も担当。共著として「業種別会計シリーズ 電力業 改訂版(第一法規)」。現在は、会計監査、合意された手続(AUP)、助言業務、仕訳データ分析業務(大規模データの処理)を主に行っている。