SHIRAHA CPA Profession Office
白羽公認会計士事務所

人的資本の開示

2023年3月期の有価証券報告書から人的資本開示が始まります

〇人的資本の開示について

 

「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正に伴って、20233月期の有価証券報告書から、「人的資本」に関する開示が求められることになった。

具体的には、有価証券報告書の「第2 事業の状況」において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」が新設されることになった。当該項目において以下の記載が求められている。

 

  • ガバナンス(サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続)
  • リスク管理理(サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程)
  • 戦略(短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組)
  • 指標及び目標(サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報)

 

このうち、③及び④において、人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標に関する開示が求められている。なお、③及び④について、重要なものについて記載することが求められているが、人的資本に関する開示は省略することができない。具体的には下記事項を記載する。

 

  • 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)
  • ⒜で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

 

(出典)企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/03.pdf

 

 

〇人的資本に関する方針

 

 各社の人材に対する方針を記載することになる。すでに対外的に開示をしている会社はそれをベースとすることが考えらえる。今まで開示をしていない場合は、金融庁が公表している「記述情報の開示の好事例集2022」の各社の記載が参考になるかもしれない。

 

(出典)記述情報の開示の好事例集2022

https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230131/04.pdf

 

 

〇人的資本に関する指標

 

 指標に関しては、対外的に公表をしていなかった会社も多く、20233月期の有価証券報告書から記載が求められるため、指標の候補を早急に検討する必要がある。なお、「記述情報の開示の好事例集2022」において、下記のような指標を公表している事例が紹介されている。

 

会社

指標

双日株式会社

女性総合職海外・国内出向経験割合、デジタル基礎研修修了者、海外グループ会社CxO(外国人人材)、チャレンジ指数、二次検診受診率、育児休暇取得率

株式会社サンゲツ

平均勤続年数、ワーキングマザー比率、育児短時間勤務利用者数

豊田合成株式会社

幹部人材を対象とした研修の受講者数、海外出向者経験者比率、DX人材の育成人数、女性管理職の人数、中途採用者の管理職比率、ローカル幹部比率(海外関係会社の副社長以上)、障がい者雇用、平均残業時間、年休取得率、エンゲージメントサーベイ結果

 

(出典)記述情報の開示の好事例集2022

https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230131/04.pdf

 

 

〇人的資本開示に関するQA

 

 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方から、関連するものを一部抜粋で記載する。適用初年度の実務において参考になるかもしれない。

 

  1. サステナビリティの記載について、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」に区分して記載すべきとしているが、4つの構成要素の趣旨を踏まえた開示がなされていれば、項目立てする必要はないか

 

  1. 具体的な記載方法については詳細に規定しておらず、現時点では、構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられます。ただし、記載に当たっては、投資家が理解しやすいよう、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることも有用だと考えられます。
  2. 人的資本の人材育成や社内環境整備については指標の採用が難しい。 特に人材育成で教育をOJT中心でやっている 場合特に数値化が困難である。 また、社内環境整備も数値化するためにアンケート等外部委託すればコストもかなりかかり中小上場会社には負担が大きい。

 

  1. 今回の改正では、サステナビリティ開示について、細かな記載事項は規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟に記載できるような枠組みとしております。 このため、人材育成方針や社内環境整備方針に関する指標及び目標についても、各企業の現在の取組状況に応じて、記載することが考えられます。 各企業の取組状況に応じて、まず2023年3月期の有価証券報告書から開示をスタートいただき、その後、投資家との対話を踏まえ、自社のサステナビリティに関する取組の進展とともに、 有価証券報告書の開示を充実させていくことが考えられます。

 

(出典)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方

https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/01.pdf